
どんな本?
蜜蜂と遠雷 / 恩田陸 作
音楽を舞台にした青春群像劇、なんだけど、実は全世代で楽しめる、人生を映す物語。
この本から得られること
音楽を愛する心を改めて実感。
音楽という、聴くことでしか味わえない芸術を文字だけで書ききる恩田さんの文章力に脱帽。
こんなアナタへおすすめしたい
- 音楽が好き
- もう一度青春したい
- さわやかな気持ちになりたい
- 直木賞受賞作を読みたい
あらすじ
近年、注目を集めている「芳ケ江国際ピアノコンクール」。新しい才能が世に出るきっかけであるこのコンクールに向けて、若いコンテスタントたちは自分の音楽を磨いていく。
自宅にピアノを持たない無名の少年。かつて天才少女と呼ばれCDデビューを果たしたものの、現在は国内で自由気ままにピアノを弾く20歳の女性。音大出身だが今は楽器店勤務の妻子持ち。ジュリアード音楽院で学ぶ、優勝候補の青年。彼らは音楽を通して人生を表現する。果たして優勝は誰の手に?
感想
すべてのアマチュア音楽家へ送る物語
4人のピアニストがコンクールに挑戦する物語なので、音大に進まなかった人(音楽をかじった大多数の人間はそうだと思うけど)は共感できないかな?と思いきや、どっこい。ぜひにアマチュア音楽家にオススメしたい作品です。
コンクール出場者『コンテスタント』4人のうち、1人は28歳・妻子持ちの男性。この人は音大卒業後、楽器店に勤めるサラーリマンです。
私は一時期、音楽大学を目指していたことがあります。また、学生時代よりオーケストラ団体に所属しており、そこで出会うプロの方たちから聞いた話ですが、演奏活動で食っていける人は本当に一握りとのこと。
楽器店勤務は、音大卒業生の就職先として非常にメジャーなことだそうです。
そして、この男性「高島 明石」さんは、そんなボリュームゾーンに当てはまる、平凡な卒業生。既婚の読者は絶対にこの人に親近感を覚えるはず!
彼が追い求めるのは、「生活者の音楽」。突出した才能がある訳でもない、音楽以外の仕事を持った生活を営むものが「音楽をすること」とは?その意義を体現しています。
私は現在もアマチュアオーケストラに在籍しています。コロナ禍で行われた演奏会にて、指揮者の先生が「アマチュア音楽家がいるから、プロの音楽が成り立つ」というお話をしていたことを思い出しました。
アマで演奏する人は、プロの演奏を聴きに行く。そうしてプロの人たちの生活を支えているから、プロの演奏が全世界に届く。
私たちはプロの音楽家が紡ぐ音楽が聴きたいし、その余韻に浸りたい。どんな解釈をしたのか、それが自分の精神世界にどう影響するのか知りたい。そのためには、アマチュア音楽家が、音楽を愛し続けることが必要なんだと感銘を受けたエピソードでした。
食っていけないから、才能がないから。それだけで音楽をあきらめるのはもったいない。時間がなくても、ちょっと弾いてみる。すると、音色のみずみずしさや、自分の中にある表現したいという熱情がはじけて、心が一気に満たされる。音楽っていいなぁ、と、改めて納得するひと時。私たちアマチュアの音楽への愛は、決して無駄ではないのです。
聴く芸術を文学にするなんて!
本作には、ほかにも魅力的な登場人物が登場します。
風間塵やマサルの、風景や物語を見せるピアノ。 栄伝亜夜の、人生や普遍の摂理を語るピアノ。
すべて音楽です。
音楽は、耳で楽しむ芸術。それを、まさか文字で見て楽しむことができるなんて。恩田陸さんの頭の中はどうなっているのでしょう…!感嘆、感激。
音楽を愛するものにとって、他人がした曲の解釈を聞くのは喜びだと思いますが、そんな喜びがこの本には詰まっています。あ~、この曲をそう聴いたのね、そしてそう弾けるのね!という楽しみがあって、まるで本当に自分がコンサートを聴きに行ったよう。
実は青春群像劇
しかもただの音楽コンクール小説だけではおわりません。 4人のコンテスタントの成長と、その周りにいる人々の人生まで映し出されており、読後は非常にさわやかな気分になります。
今まで音楽をあまり聴いてこなかった方も、「音楽ってこんなものなんだ~」と楽しめる作品です。
音楽に対する姿勢を変えさせてくれた一冊でした。私も生涯、アマチュア音楽家として音楽を愛していきたいと思います!
すべての方にオススメです!
★★★★★(価値観を変えた傑作)
▼文庫版では上下巻に分かれています