
どんな本?
世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか? 経営における「アート」と「サイエンス」 / 山口周
NYのメトロポリタン美術館で早朝行われているギャラリートークに、知的エリートと思われるビジネスマンの姿が見かけられるようになった。
なぜ世界のエリートは「美意識」を鍛えるのだろうか?答えのない世界を生きるために必要な「美意識」とは。
この本から得られること
直観や倫理観を磨く意義
こんなアナタへおすすめしたい
- 芸術に興味がない
- すべてに合理性を求める性格
- 管理職
感想
サラリーマンの閉塞感はここにあり
新しい企画を考えても、数字の根拠を説明するのに時間を要して、結局モノにならなかったことがいくつかあります。
それが数年後、他社から出てバズってると本当にくやしい。
私には、ともすれば頑固ともいえる上層部を納得させられるだけの数字を出せなかった。
でもそれは、出しても出しても「この場合どうなる?」の繰り返しで、一向にGOを出せなかった上層部の度胸のなさもある、と、その時は思っていました。
なんでこうなっちゃうんだろ。その答えが本作にあります。
それは、「サイエンス・クラフト・アートの3者のうち、アートだけは説明できないため、どうしても負ける」から。
サイエンス=データ、クラフト=経験と読み換えるとわかりやすいです。私たちはビジネス上の意思決定をする際、どうしてもデータか経験によるロジックを根拠にしたがります。
ただ、サイエンスとクラフトによる論理、つまり「正しく理性的である」ということは、「誰がやっても必ず結論が一緒になる」ということでもあります。
そうなると、勝負は「スピードとコストパフォーマンス」になる。だから疲弊していく、というストーリーです。
現状のビジネスの様相を、著者は以下のように語ります。
アカウンタビリティーという責任のシステムが、かえって意思決定者の責任放棄の方便になってしまっている
そして、
画期的なイノベーションが起こる時には、非論理的ではなく超論理的な意思決定が行われている
とも。
これは、大変にキビシイ。
サイエンスとクラフトに則った意思決定なら、年数を重ねれば、あるいは学べばできるかもしれない。でも、アート、つまり美意識(ここでは「直感」)は、今のところ体系だった学びの手段がありません。
また、成功の確率もわからないので、失敗することも多いかもしれない。そのリスクをとってでも自分の直感を主張するのは、よっぽど自信がないと難しいと感じました。
自分なりのものさしを持つこと
本作での「美意識」とは、ただたんに外目を気にすることだけを意図しているのではなく、「真・善・美」のことを指しています。
人と比較するのではなく、自分なりのものさしを持ちなさい。これは、ハーバード大学での講演の一節です。
自分なりの美意識、ものさしをもってないと、エリートはコンプライアンス違反をしてしまう可能性があるからです。
昨今ニュースを賑わせている東京五輪の汚職事件ですが、角川との契約書ドラフト時点では、法務部内で「(五輪に関するコンサルタント料名目での支払いは)贈賄容疑に抵触の可能性あり」と指摘されていたにもかかわらず、その後、コンサル対象に万博等を追加することによって「要件的にはこれで問題ないだろう」と結論付けた経緯があります。
これを聞いたとき、対岸の火事ではないと思いました。ビジネスにおいて、法律ギリギリを攻める表現はよく行われるからです。私にも「これなら抵触しないから大丈夫」という経験があります。
でも、よく考えれば、真・善・美の意識があれば、これは本質的には変わっておらず、よって贈賄容疑に抵触する可能性はぬぐえないことはわかりますよね。
ハーバード大学は世界のエリートが巣立つ学び舎です。だから、ギリギリを攻めすぎると犯罪者になってしまう。それを回避するために、「自分なりのものさしをもちなさい」と話されたのです。
道徳を後付けで明文化した法律を回避することだけを目的とするのではなく、そもそもの「道徳」を守るために。
教養を身に着けることは無駄にはならない
アートとは、美術・音楽の芸術分野だけではなく、人文学・社会科学・自然科学といったリベラルアーツも含まれます。つまり、教養です。
私はこの本を読むまで、教養=生きるための処世術、くらいにしか思ってませんでした。
ただ、私自身は美術や音楽が好きだし、インスタグラムをやるぐらいなので読書も好きです。でもこれは、お金にならない、ただの趣味だなぁ、よく生きるための手段だな、と感じていました。
教養を磨くことは、ビジネスにも役に立つ。この本でそれを指摘してもらって、私が好きなものが認められたような気がしました。
芸術も、読書も、良いですよー!そんなのムダ、と思うビジネスパーソンのみなさま。これから「○○の秋」、ぜひに新しい分野やチャレンジしてみていただければと思います。
★★★★(人生で一度は読みたい)